読書録① 「43回の殺意」
卒業研究のテーマを決めるため、教育や、学校保健等に関する事例に当たるよう、大学の先生に提案されたので、まずは1冊目。
「43回の殺意〜川崎中一男子生徒殺害事件の深層」 作者はノンフィクション作家の石井光太さんで、国内外の貧困や災害、事件などをテーマに取材、執筆活動を行っている。
<この事件の概要>
両親の離婚により、母親と兄弟と共に田舎(島)から神奈川県川崎市に引っ越してきた少年(以下Rくん)が、母親が彼氏を自宅に連れてきたり、島に戻りたいという様々な葛藤の中、また小学校の時に仲良くしていた友人らとは異なる中学校に進学することになり、孤独な環境にいたこと等を要因として、不良グループの先輩たちの輪に身を置くことになってしまった。中学校入学当初は部活に勤しんでいたRくんは、すぐに不登校になり、先輩たちの指示に従い、非行に染まる中、むしゃくしゃしていた加害者(以下Aくん)に暴行を加えられた。Aくんは当時未成年飲酒によりべろべろに酔っていたようだ。その後、飲酒でべろべろになったAくんがRくんに暴行し、それがエスカレートして、43回もカッターで刺され、2月の川で泳がされるなどして殺害された。
〇AくんはB、Cくんらの3人で、Rくんを殺害した。
Aくんの特徴:
・精神鑑定で共感性が乏しいと出ている
・小学校中学年ごろから、落ち着きが無かったり、友達と信頼関係を築けない
・中学校に入り、不良グループにいじめられ、その後万引きや、自分より弱い者に大きな態度をとる
・高校生受験に落ち、定時制高校に行くが、高校生活に対する興味を失って、遊びまわる。中学生の頃のいじめ等による抑圧から解放され、自身が粗暴なふるまいをするようになる。
・母親はフィリピン人。家族の中は良好な時もあれば、体罰(ハンガーで殴る、6時間正座をさせるなど)もあった。
・事件中は、保護観察中であった
・ゲームやアニメが生活の中心
B君の特徴:
・母親はフィリピンからホステスとして出稼ぎにきており、日本語は拙く、学校の配布物等の理解できてない状態。
・父親はBくんの出産時には別れていた。母親の新しい彼氏が住み始めたが、悪態をついてくる等で不満を募らせる
・中学でいじめを受けながら不良グループと付き合う。家にも学校にも居場所がない状態。
・Aくんと同じく保護観察中であった
・ゲームやアニメが生活の中心
Cくんの特徴
・ADHDの傾向あり
・Aくんとはぬいぐるみを介してコミュニケーションをとるなど幼稚なコミュニケーションをとる
・酒癖が悪く、酔うとだれかれ構わずに絡んで攻撃性をむき出しにする
これらのことから、加害者の状況について共通、一部共通していることは、
①自身がいじめを受けていて、ストレスを溜めていた。
②家庭状況が悪く、家に居場所がない
③飲酒をすると狂暴になる。日々のストレスが表出していたと考えられる
④ゲームやアニメが生活の中心でそれにより、繋がっていた
⑤発達障害の傾向があるが、診断を受けていない
⑥保護観察中でありながらも、監視を受けているわけではなく、結果事件を起こす
考えられる改善策
①教育現場での、いじめの被害者には、継続的な心のケアが必要。加害者についても一方的に指導するのではなく、いじめに至った背景や、自身がいじめられていたのではないか、家庭問題を抱えているのではないかなど、発見のチャンスにもなることを意識しておく。両者が納得しないといじめの解決とは言えない。再発防止のために、謝罪だけではなく、何度も話し合いなどを重ねて、物理的ではなく、精神的な解決をする。
②家庭で居場所が無く、外で遊びまわってしまう。家庭で暴力を受け、暴力が対人関係に現れたり、建設的な解決の方法が分からない。コミュニケーション能力を築けない、自分は大切にされないという思いから自己肯定感が低下する。等の問題がある。
教師が子供たちの理解者となり、たくさん話や悩みを聞くことが必要。養護教諭としても、話を聞いたり、自己肯定感を高めるかかわりを持ったり、虐待の早期発見に努めることが大切。
③未成年飲酒を取り締まるために、県内での年齢確認を徹底する。学校教育での飲酒についての教育を強化する。保護者にも飲酒により、事件に巻き込まれる可能性を伝え、子どもが飲まないように教育するよう何度も助言する。
④コミュニケーション能力に乏しい子どもたちがゲームやアニメにどっぷりとはまる、これは相互に関係している。学校教育で、対人関係能力を身につけるためにどうするべきか、、対人関係能力の育成については私自身も今後勉強していきたい所存である。
⑤発達障害については、診断を受けることで、なんらかのサポートを受けられるのではないかと考える。特別支援学級との通級にしたり、大人の目がより向くことでいじめの被害者になることを予防することにつながると予測する。
⑥私は、保護観察の実際についてはほとんど認識がない。しかし、一度事件が起こった時に、適切な措置を受けていれば、今回の事件には至らなかった可能性は十分にある。
この本を読んで、、
私はこの本を読むまでは、この事件について知らなかったため、新しく知れたこと、考えさせられたことが多い。例えば、私の住む地域では、比較的飲酒の年齢確認が徹底されていたり、人権問題が顕著ではないため、地域が抱える問題について考えさせられた。また、家庭環境が子供に与える影響の強さについて感じた。子どもは生まれてくる家庭を選ぶことはできないので、社会全体で恵まれない子供をサポートすることは必要不可欠であるといえる。子どもたちに生きる意味を与えられる社会であってほしいと願う。
メモ
〇p205 傷害および殺人事件の40~60%、強姦事件の30~70%、DV事件の40~80%にアルコールが関係している→未成年の飲酒を制限しているのには、健康被害だけでなく、事件に巻き込まれないためでもあるということが分かる。